2013年秋季低温工学・超電導学会 セッション報告
Y系コイル保護 1A-a01-06 座長 中村 武恒
早大の南ら(1A-a01)は、Y系SMESコイルを想定した局所的常電導転移検出法に関する検討結果を報告した。高温超電導コイル
におけるホットスポットの検出については、低い常電導伝搬速度によって、end-to-endの端子電圧を測定するだけでは精度が低い。
そこで同グループは、バンドル導体の局所的常電導転移に伴う電流転流をホール素子で検出することにより、当該高精度検出法を
提案していた。本報告では、実際にY系バンドル導体を使用したパンケーキコイルを試作し、前記方法にてヒータ擾乱に伴う特性評価を
実施したところ、精度良く検出できることを示した。さらに、実験結果を解析によって再現し、コイル特性評価方法の妥当性を示した。
東北大の武藤ら(1A-a02)は、REBCO 線材を用いた25T無冷媒超電導マグネット開発の一環として、GdBCO シングルパンケーキ
コイルの外部磁場遮断時の振る舞いを実験的に検討した。アウトサートコイルを模擬した5 T NbTiマグネットが作る外部磁場を遮断
した際の誘起電流他の通電特性を評価し、試作コイルの臨界電流以下では熱暴走他が起こらないことを示した。今後、さらに詳細な
試験データの充実が望まれる。
理研の柳澤ら(1A-a03)は、非絶縁REBCO パンケーキコイルにおける熱暴走からの自律的な回復メカニズムについて、解析的検討
結果を中心に報告した。コイル内における電流、電圧、および温度分布を、分布定数回路方程式と一次元有限要素法(熱解析)の
連成解析によって可視化し、直観的にも理解し易い特性評価例を紹介した。質擬の際、低温超電導コイルに関する過去の検討例との
関係が議論された。
千葉大の佐藤ら(1A-a04)は、柳澤らの講演に引き続いて、非絶縁REBCO レイヤー巻コイルの実験的特性評価結果を報告した。
液体窒素中における試験の結果、電流分布の転移が主としてコイル径方向において生じていると考えられる実験結果を得ている。その他、
コイル軸方向に電流密度の勾配が生じると、当該方向への引張応力が生じることも説明された。
北大の野口ら(1A-a05)は、非絶縁REBCO コイルのターン間接触抵抗と通電特性の関係について、数値解析結果を報告した。本報告
は、途中経過との印象を持ったが、同グループの数値解析技術には定評があり、今後の進展が大いに期待される。
早大の荒川ら(1A-a06)は、REBCO テープ材を用いた小口径非絶縁パンケーキコイルについて、発生磁場の遅れ特性を簡易等価回路
解析に基づいて検討した。超電導特性をn値モデルで近似した解析結果が、実験結果と定量的に一致することから、同解析の妥当性を
示した。今後は、大口径コイルについても検討する予定とのことであった。
定常強磁場施設計画 1A-p01-06 座長 川越 明史
定常強磁場施設計画のセッションでは,「強磁場コラボラトリー」の計画について,6件の発表があった。
1A-p01は,東北大金研と物材機構からの発表で,計画の概略について説明された。現在は,無冷媒25 T超電導マグネット
の建設計画が進められており,本セッションでは,その現状が報告されると説明された。
1A-p02は,フジクラと東北大金研からの発表で,無冷媒25 T超伝導マグネットに使用されるREBCO線材の臨界電流特性に
ついて報告された。低温高磁場中の臨界電流を,液体窒素中の測定結果から予測するには,自己磁場下の測定ではなく0.6 T
程度の磁場中の測定が有効なことが示された。
1A-p03は,東北大と物材機構,古河電工,東芝からの発表で,Nb3Snラザフォードケーブルの臨界電流を14 T中で測定した結果
が報告された。機械歪を低減するために事前曲げ処理を行った5ターンの非含浸コイルの測定の結果,機械的に素線が動いたためと
考えられるクエンチが発生したとのことであった。このため,今後はエポキシ含浸を検討するとのことであった。電磁力が強いのでエポキシ
が割れてしまい,余計にクエンチしやすくなるのではないかとの懸念が質問されたが,今後検討を進めるとの回答であった。
1A-p04は,東芝と東北大からの発表で,無冷媒25T超電導マグネット用REBCOインサートコイルを熱暴走させない設計について
報告された。インサートコイルにとって最も厳しい条件は,外層のLTSコイルのクエンチが起きた場合であり,その際の電流・電圧が回路
解析によって調べられていた。その結果,REBCO線材を2枚バンドルして巻線することにより遮断時の電流減衰を速め,負荷率を100%
以下に抑えることができると報告された。
1A-p05は,東芝と東北大からの発表で,無冷媒25T超電導マグネット用の冷却系に関する基本検討結果に関して報告された。以前
開発した18 Tマグネットと比較してHTSコイルの発熱が大きいため,10 W級のGM冷凍機をHTSコイルに用い,LTSコイルには,18 T
マグネットと同様にGM/JT冷凍機を用いる構成にしたとのことであった。この際,HTSコイルとGM冷凍機の距離を離すために,GM冷凍
機とHTSコイル間の伝熱にはガス循環系を用いることにしたとのことであった。LTSコイルの冷却系は,18 Tマグネットと同様に単段のGM
冷凍機による初期冷却を採用し,その後,2段GM/JT冷凍機で冷却する方式としたとのことであった。これらの構成によって,仕様を満たす
冷却が可能な見通しがったとのことであった。
1A-p06は,東北大金研,フジクラ,東芝からの発表で,HTSマグネットのヒステリシス損失を計算した結果について報告された。伝導冷却
であるので,単位時間あたりの損失である発熱に注目して交流損失を計算していた。特に,垂直磁界損失の計算に関しては,無限平板
近似とストリップ近似で計算しており,無限平板近似の場合には,磁界が大きくなるに従って発熱も増加する傾向にあるとのことであった。
Bi2223テープ線で巻線したコイルの励磁中の温度測定の結果からは,無限平板近似に近い結果が得られていたことから,Gd123線材で
巻線したHTSマグネットの交流損失も,無限平板に近い特性になると予測しているとのことであった。
コイル電磁現象 1A-p07-10 座長 岩井 貞憲
1A-p07朴(千葉大);REBCOコイルを適用したNMRマグネットに関し、遮蔽磁場の定量的な実験結果が報告された。Bi系線材の場合
に比べ、REBCO線材では10倍もの遮蔽磁場が観測されたとのこと。今後、磁場補正のベストミックス技術が必要となることが提言され、
議論がなされた。
1A-p08井口(上智大);REBCOコイルを適用したNMRマグネットに関し、遮蔽磁場が補正シムコイルに与える影響について報告がなさ
れた。ラジアル超伝導シムコイルを模擬した銅製のシムコイルで補正能力を調査したところ、低温では室温の数%程度の補正能力しか
得られなかったとのこと。しかしながら、高負荷率領域では補正能力が回復し、効果的に調整できるということである。
1A-p09齋藤(阪大);REBCOコイルを適用したNMRマグネットに関し、スクライビング線材による遮蔽電流の低減効果について報告がなさ
れた。10 mm幅線材を用いたパンケーキコイルと、2 mm幅線材を用いたパンケーキコイルについて、それぞれ電磁場解析を行ったところ、
細線化により遮蔽磁場は大きく低減する結果が示され、細線化は遮蔽磁場の抑制に効果的であるとのこと。
1A-p10越智(京大);RE系コイルの通電特性に関し、線材長手方向の臨界電流値の分布と通電特性の計算結果との関係性について報告が
なされた。Gauss分布関数によるフィッティングに比べWeibull分布関数でフィッティングした方が、より長手方向の分布を再現できるとのこと。
今後、実験結果との比較・評価が期待される。
MgB2(1) 1B-a01-06 座長 木内 勝
1B-a01:前田(日大)らは、高Jc化のために、ピレン(C16H10)添加とCold high pressure densification process(CHPD)を用いて
MgB2線材を作製した。特にピレン添加は600℃の低温熱処理においても結晶を歪ませる効果があり、これにより高磁界領域の高Jc化
に有効であること示した。
1B-a02: 水谷(東大)らは、ex-situ法によるMgB2のコネクティビティの改善のために、自製MgB2原料粉末+第三元素
置換+ボールミルを用いて、常圧下と一軸加圧下のex-situ法MgB2バルクを作製し、微細組織、磁化率及び電気抵抗率の
評価を行った。この結果、コネクティビティが一軸加圧下の59%に比べて、常圧下では43%とわずかに低い値になったが、更なる
最適化により常圧下でも高いコネクティビティが得られる可能性を示した。
1B-a03:新田(NIMS)らは、Mg粉末の粒径を変化させることにより内部拡散法と同様な効果が期待できることから、様々な
粒径サイズのMg原料を用いてIn-situ PIT法によりMgB2を作製した。特にMg粒径が大きいほど、高Jcが得られることを示した。
但し、細線や多芯にするとBの量が不足する為に、逆にJcが低下すると指摘した。
1B-a04:葉 (NIMS)らは、内部Mg拡散法とPIT法を併用し、MgB2 線材を作製した。この手法では、未反応Bを減少させ、
さらにMg棒の径を小さくすることが出来ることから、熱処理後の空隙を低減できるためにエンジニアイングJeを向上させることが
出来ることを示した。
1B-a05:山本(九大)らは、内部Mg拡散法によって作製された鉄シースMgB2線材に対して、磁気顕微法を用いて線材内の
局所臨界電流分布を評価した。特に、線材の長手方向にはJcが広く分布し、組成分析との併用により、Bの濃度の違いにより
Jcが大きく異なることを明らかにした。また、トランスポートのJcと磁気顕微法Jcの違いは、中央部のクラックが主な原因で、この
クラックはトランスポート測定後の観察用試料加工により生じた可能性があるとコメントした。
1B-a06:浅見(上智大)らは、外部磁場を印加した状態でMgB2素線のIc-歪み依存特性を測定した。特にMgB2素線をスプリング
状にし、室温と液体窒素温度でのポアソン比を評価した結果、多少の誤差は含まれるが室温と液体窒素温度でポアソン比はおよそ
0.37程度になることを報告した。
ケーブル設計 1B-p01-05 座長 八木 正史
山口(中部大)からは石狩市での直流超電導ケーブルプロジェクトの概要が報告された。断熱管の熱侵入低減により長距離輸送が
可能になる。
佐藤(早大)からはサブクール窒素冷却時の超電導ケーブルを想定し、過電流通電が発生した際の温度・圧力の数値計算の報告があり、
ガス発生のメカニズムの把握が今後の課題となっている。
秋田(東北大)からは三相同一軸型高温超電導ケーブルの送電可能距離において、三心一括型に比べて送電可能距離が2倍以上に
なるとの報告があった。
松下(九工大)からは直流送電ケーブルにおいて縦磁界を利用した特性向上の見通しを示され、さらに薄膜系超電導線材の臨界電流
密度の上昇に伴って、さらなる特性向上が期待できる。
ケーブル試験 1B-p06-10 座長 浜辺 誠
1B-p06:中山(古河)らは長期の課通電試験を行ってきた275 kV-3 kA超電導ケーブルの継続試験として、3回目の冷却でのIc測定
および310 kV課電試験を行い、異常がないことを確認した。
1B-p07:渡辺(フジクラ)らは単心の交流超電導ケーブルの二重コルゲート管について、渦電流損を求める式を導出し、モデルケーブル
による実測値とほぼ一致することを示し、線材の巻き方向と渦電流損の関係を明らかにした。
1B-p08:渡辺(フジクラ)らの講演では、240 A/本以上の高IcのY系線材の超電導ケーブルを22 m長で製作し、目標値より小さい
約1.4 W/mの交流損を5 kA、77 Kで達成したことが報告された。
1B-p09:富田(鉄道総研)らはDC1.5 kV、5 kA、30 m長の超電導ケーブルを鉄道き電線として構内の実験線路に実際に敷設し、
鉄道車両に実際に給電する走行試験に成功したことを報告した。
1B-p10:渡部(住友電工)らは東電旭変電所内で約1年実系統運転に供している66 kV級超電導ケーブルにおいて、冷却システムの
安定運転、Icの健全性、さらに系統運転中の冷凍機交換作業の健全性などについて報告した。
磁気冷凍/小型冷凍機(1) 1C-a01-06 座長 神谷 宏治
1C-a01:増山らは、4 K-GM冷凍機によりHo-Er二元窒化物蓄冷材を評価した。実験の結果、HoCu2よりも高密度、高比熱なはずの
Ho-Er窒化物の冷凍能力が低く、原因としてHo-Er窒化物の表面状態による充填率の低下が挙げられた。
1C-a02:小林らは、1C-a01で増山の用いたHo-Er窒化物の製作方法について発表した。製作において最も重要な要素の一つである
表面状態が、酸素含有量が低いほど滑らかなこと、超音波により表面の突起を除去可能なことをSEMにより明らかにした。
1C-a03:恒石らは、キュリー点の異なるGdとイットリウム合金を蓄冷器の長手方向に配列した磁気冷凍の実験と数値計算の比較を行った。
実験に用いた全ての配列パターンに対し、数値計算が高い再現性を有していることが示された。
1C-a04:中野らは高温超電導用スターリングパルス管のCOP向上に向けた実験機の試作を発表した。パルス管の実験結果に対し数値
計算を行った結果、熱損失同様に摩擦損失が大きいことが明らかになった。
1C-a05:朱は、通常のイナータンスチュープ型パルス管冷凍機のチューブにバッファーを設け、ビストン部に接続することで、イナータンスの
熱損失を回収することが可能なステップピストン圧縮機型パルス管を発表し、数値計算による性能評価を行った。今後の発展が期待
できる印象を受けた。
1C-a06:上野らは、NIMSで行われた低温技術夏合宿において、77 Kの小型冷凍機の製作実習について報告した。実習では、複数
種類の蓄冷材で冷却実験を行い、SUSメッシュのみの蓄冷材が最も高い冷却能力を示すことを体験したことなど、本実習が座学とともに
極めて価値の高い合宿であったことが報告された。
ITER(1) 1C-p01-06 座長 岩本 晃史
1C-p01:布谷(原子力機構)らでは、Toloidal Field(TF) コイル用導体製作の進捗状況について報告があった。ジャケット
管への導体の引き込み後の最終撚りピッチに伸びがあることが判明した。導体の最終性能には問題なく、ITER機構ともこの
状態の導体を使用することで合意している。
1C-p02:諏訪(高橋から変更)(原子力機構)らでは、ITER導体用Nb3Sn撚線製作時に発生する素線同士の圧縮によるダメージ
に対する評価基準について報告された。素線には圧縮により凹みが発生するがその許容値を実験的に明らかにした。今後、
通電時の横圧縮などの効果なども考慮しながらさらに検討を進める。
1C-p03:名原(原子力機構)らではITER Central Solenoid (CS)用Nb3Sn導体の性能試験について報告があった。内部拡散法
により製作した米国製及び韓国製導体の分流開始温度や交流損失について励磁回数依存性を日本製導体と比較した結果、
韓国製導体のみ少し異なる性能であることが明らかになった。原因は不明である。
1C-p05:松井(原子力機構)らではITER TFコイル巻線試作について報告があった。試作の結果、設計長さに対し0.01%以内
の巻線精度を達成できることが確認された。
1C-p06:辺見(山根からの変更)(原子力機構)らではITER TFコイルの熱処理試作の結果について報告された。試作の結果、
熱処理後の導体に伸びが見られたが、この結果を実機の製作に反映させる。また、懸念となっていた熱処理後のトランスファー
装置について実証に成功した。
ITER(2) 1C-p07-11 座長 柳 長門
ITER のトロイダル磁場(TF)コイルについて5件の発表があった。
1C-p07 櫻井(JAEA):日本が全数を調達するTFコイルの構造物の調達が進められており、実規模試作が行われている。構造物には、
最終寸法公差として2 mm以下という厳しい値を満たす合理的な製作法が要求される。そこで、基本セグメントの溶接変形を低減し、
溶接後の機械加工量を極力低減する方法を探ってきた。これまでは溶接方法として片側狭開先のTIG溶接を基本としてきたが、
両側狭開先のTIG溶接に変更することで、溶接中に溶接変形を制御することが可能となり、実規模試験でその優位性が確認された。
1C-p08 高野(JAEA):TFコイルは日本が9個の製作を予定している。巻線の最終固定に使用されるラジアルプレートについても、
極めて高い寸法精度が要求される。特に、熱処理によって伸縮した巻線寸法に合わせて溝周長を調整することが必要である。そこで、
周方向に10個のセグメントに分割して製作し、最終のD型に組み立てる際に各セグメントの両端に設けた余肉を機械加工することで
寸法調整を行う方法が開発され、試作試験を進めている。
1C-p09 辺見(JAEA):TFコイルの導体に設ける超臨界圧ヘリウム導入部(冷媒入口部)の試作が行われている。この部分では、
コイルの励磁によって3万回の繰り返し歪みが生じる。これについて、有限要素法を駆使した解析(コイル全体のグローバルモデルから
入口部近辺の詳細モデルまでの階層化)とともに、カールスルーエ工科大学において液体ヘリウム中で疲労試験を実施して評価して
いる。試験の結果、26万1千回の繰り返し歪みを加えても試験体は破断せず、要求される機械特性を満足することが確認された。
1C-p10 梶谷(JAEA):TFコイル導体のジョイント部について、実機コイル製作前に性能を検証すべくサンプルを製作し、NIFSの
大型導体試験装置を用いて試験を行っている。測定された接続抵抗値は、1 nΩ以下であり、TFコイルの要求値である3 nΩに対して
十分小さい値であることを確認した。接続抵抗は外部磁場で増加するが、これは銅スリーブの磁気抵抗で説明できる。また、磁場と
電流の方向を変えることでサンプルに引張と圧縮の双方の電磁力を印加したが、差はわずかであった。
1C-p11 佐浦(名大):上記のTFコイル導体のジョイント部のサンプル試験において、NIFSの大型導体試験装置では、これまで電流
リードから導体サンプルへの接続を銅ブスバーで行っていた。TFコイル導体では電流値が68 kAと大きく、この部分で300 W近い発熱となり、
液体ヘリウムへの熱負荷が大きすぎる。そこで、銅ブスバーにBi-2223高温超伝導線材35枚を添わせ、これに電流の一部を転流させることで
発熱を抑えることを試み、まずは6割程度まで低減できた。特に、両者の間の接続抵抗を考慮した数値解析によって、ロゴスキーコイルで
測定された電流配分割合についてほぼ説明できることを確かめた。
A15線材 1D-a01-04 座長 西島 元
川嶋(神戸製鋼)は分散Sn法Nb3Sn線材の開発について報告した。ブロンズ法線材では、Sn濃度16%程度までが限界であるが、
本開発では最大38%までのSn濃度で試作に成功した。ブロンズ化熱処理の多段化、最適化により微細な等軸粒のNb3Snが
生成し、4.2 K, 18 Tにおいて、Je(overall Jc)=264 A/mm2、n値=35であった。Jcの向上についてはまだ十分余地があるとのことで
今後交流損失や機械特性等の報告も期待される。
菱沼(核融合研)はブロンズにZnを添加したCu-Sn-Znブロンズを用いたNb3Sn多芯線材開発について報告した。Zn添加によるNb3Sn
層生成促進や、拡散熱処理後の残留Znによる線材の機械特性改善等を期待している。まだJcは測定されていない
ようであるが、熱処理条件次第では一般的なブロンズ法Nb3Sn線材と同程度のTcが得られている。
高橋(東北大)は高強度Nb3Sn線材を用いたラザフォードケーブルの引張り条件における格子歪変化を中性子回折によって調べた。
事前曲げ効果による残留歪緩和については素線の場合と矛盾しない結果が得られたが、高歪側では撚線が絞られて(締まって)
いくために、外部歪(伸び計で計測)と内部歪(結晶格子歪)に差が生じると述べた。
伴野(NIMS)はTaマトリクスNb3Al線材の伸線加工性改善のために、いわゆる中間焼鈍の代わりに中間急熱焼鈍を利用する
効果について報告した。中間急熱焼鈍における入力エネルギーが大きくなると焼鈍の効果が現れるものの、界面で化合物生成
が確認されている。今後、入力エネルギーを小さくして時間を長くするといった最適化を進める必要があると述べた。
構造材料 1D-a05 座長 熊谷 進
1D-a05 由利(NIMS):Ti-6Al-4V合金の室温、77 K、20 KガスヘリウムにおけるCT試験片を用いた破壊靱性試験を
行い、極低温破壊靱性に及ぼす組織の影響を検討した。Ti-6Al-4V合金の(α+βanneal)材、β炉冷材、β空冷材、
β水冷材の破壊靱性は、何れの温度においてもβ炉冷材>β空冷材>(α+βanneal)材>β水冷材の順で高い値を示し、
冷却速度で変化するβ相針状組織の大きさとき裂進展抵抗が密接に関連していることを走査電子顕微鏡による破面
観察から明らかにした。また、これまで蓄積された極低温疲労試験結果及びTi-5Al-2.5Sn合金に関する結果も併せて
極低温構造材料の選定指針に関する考察があり、活発な議論があった。
LTSデバイス(1) 1D-p01-06 座長 日高 睦夫
本LTSデバイスセッションは、今回から新たに設けられたセッションである。これまでLTSデバイスの発表が
行われてきた他学会ではあまりなかったような材料や冷凍機に関する有意義な質問が数多くあり、発表者にも
本学会で発表することの意義が感じられたものと思われる。
横国大の高橋から、バイアス電流を複数回使い回すカレントリサイクルを有効に行うためのデバイス構造に
関する発表があった。カレントリサイクルを行うために分離したグランドプレーン境界を最下層のニオブで
覆うことで、グランドプレーン境界から侵入する外部磁場を遮蔽でき、回路の正常動作を得ることができた。
名大の谷口は、超伝導メモリへの応用を目標にPdNi薄膜の開発を行っている。Ni割合が17at%以上の時は強磁性
的になりSQUID特性のシフトが見られた。一方、11at%の時は常磁性的な振る舞いが見られた。組成の均一性
など今後詰めていくべき項目も多いが、将来楽しみな結果であった。
名大の田中から、以前動作に成功したSFQマイクロプロセッサをさらに低消費電力化し、エネルギ・遅延積で
1/15の値を達成したとの報告があった。この成果は従来から低消費電力・高速回路として知られているSFQ回路
の性能が、改良を加えることによりさらに向上できることを示したものである。なお、このエネルギ・遅延積
は半導体回路に対して5-6桁の優位性がある。
MgB2バルク 1D-p07-11 座長 岡 徹雄
大会初日の夕刻に、近年注目を集めているMgB2バルクを対象に5件の口頭発表が行われた。
石原ら(鉄道総研、1D-p07)は、4 T級の磁場を捕捉できるMgB2超伝導バルク磁石の開発に成功し、20 Kでの捕捉磁場と安定性を報告した。
杉野ら(東大、1D-p08)は、MgB2バルク磁石の厚さ方向の寸法変化が磁場捕捉に及ぼす効果について発表し、20 Kにおける
捕捉磁場に影響があることを報告した。
吉田ら(岩手大、1D-p09)は、高温等方圧プレス(HIP)による材料合成により、史上最高の捕捉磁場である4.6 Tを、14.1 Kに冷却して重ねた
2つのバルク間で記録したことを報告した。
氏家ら(岩手大、1D-p10)は、HIP法によるMgB2バルク磁石のパルス着磁特性を評価し、材料の特性である小さな比熱と高い
熱伝導率を反映した着磁性能を報告した。
内藤ら(岩手大、1D-p11)は、従来材料であるGd123系バルクとMgB2バルクを組み合わせた磁石について実験と数値計算の結果を併せて
報告し、リング状のMgB2バルクの内部に組み合わせたGd系バルク磁石で捕捉磁場性能の向上が認められたと述べた。
以上の報告を通じ、MgB2バルクは、軽量でその材料が均一性にすぐれること、製造方法やその条件の柔軟性などから強磁場を捕捉
できるバルク磁石材料として有望であるなど活発な討論があった。
小型冷凍機(2)/磁気冷凍機 1P-p01-08 座長 松本 宏一
断熱消磁冷凍機2件、室温磁気冷凍4件、4 K冷凍、50 K冷凍機各1件の発表があった。
1P-p01 植田(NIMS, 千葉大) 断熱消磁冷凍機のパワーリードにREBCO線材を用いた実験を行い、必要な性能を得た。
1P-p02 原田(筑波大) 断熱消磁冷凍機のパーマロイとアルミの多層化で磁気シールドの性能向上を報告した。
1P-p03 松井(東工大) 室温磁気冷凍機のモデル計算で、10 Tまでの磁場強度について運転条件やCOPなどを求めた。
1P-p04 宮崎(鉄道総研) 永久磁石とGd3.6 kgを用い、磁気冷凍機を構築し、温度スパンゼロにおいて1.39 kWの冷凍能力を得た。
1P-p05 野口(鉄道総研) kW級室温磁気冷凍機で、3種類の磁性体をカスケードした場合の優位性を数値計算により評価した。
1P-p06 山田(千葉大) 室温磁気冷凍機の数値計算で、磁気熱量効果を仮定し、冷凍性能に及ぼす効果を研究した。
1P-p07 増山(大島商船高専) 4 KGM冷凍機の実験で、蓄冷材量を減少させる充填方法を報告した。
1P-p08 高橋(エア・ウォーター総合開発研究所) 高温超電導機器冷却用50 K冷凍機を開発し、100 W以上とCOP 0.025以上の性能を達成した。
HTS線材特性 1P-p09-17 座長 井上 昌睦
1P-p09:吉村(熊本大)らは、Bi2223薄膜へXeイオンを照射した際の磁場中臨界電流特性の変化について報告した。
77 Kおよび60 Kでは3 T以下の磁場中でJc値が向上していることが示された。
1P-p10:馬渡(産総研)らは、超伝導ストリップにおける臨界電流密度の理論的限界を対破壊電流密度との比として
考察を行った。バルクピンのない理想的な超伝導ストリップにおいては、ストリップ幅wが広くなるとJcがwの-1/2乗で減少
することを示した。
1P-p11:木内(九工大)らは、膜厚を1.04 μm、2.08 μm、3.12 μmとしたPLD-GdBCO線材の磁化緩和特性について
報告した。20 Kでは、Jc値は膜厚の増加とともに減少し、見かけ上のピンニングポテンシャルは2.08 μmの膜厚のものが最大
となることを示した。これらは膜厚の増加とともに結晶の乱れや超伝導特性の不均一性が生じたためと考えられる。
1P-p12:木内(九工大)らは、重イオン照射を施したPLD-GdBCO線材の縦磁界下での臨界電流特性について報告した。
Au、Xeのどちらの重イオン照射においても、77 K、自己磁界でのJcとTcに低下が見られるものの、縦磁界下で自己磁場での
Jc値を超えるJc値が得られることが確認された。特にイオン半径の小さいXeの重イオン照射試料で明確なJcの向上が確認されている。
1P-p14:モハメド(中部大)らは、BSCCO線材に過電流を印加した際の自己磁場をホール素子により調べた。200 AのIc値
に対して450 Aを数msec印加した際の、定点における磁場の時間変化と、定時における線材幅方向の磁場プロファイルに
ついて報告を行った。今後、磁化緩和特性や電流分布について解析することが期待される。
1P-p15:浅野(名大)らは、基板に引張応力を印加した状態で作製したPLD-GdBCO線材の結晶性、配向性、超伝導特性
について報告した。IBAD-MgO基板の支持台にflat治具と、曲率半径約38 cmのbending治具を用いることにより、a軸及び
b軸の軸長を制御している。実験結果から、a軸、b軸が圧縮されるとTcが向上する傾向があること、ひずみ量の増加に伴いJc
値が下がることが示された。
1P-p16:笠原(熊本大)らは、曲げひずみを印加したPLD-GdBCO線材の電流輸送特性の劣化を、第三高調波電圧誘導法
により評価した。Goldacker式の曲げ装置で、曲げ直径を無限大(曲げ無し)から10 mmまで変化させて第三高調波電圧の
コイル電流依存性を調べたところ、曲げ直径が20 mmのときに電圧が観測され始めることが報告された。
1P-p17:小黒(東北大)らは、X線回折装置を用いたREBCO線材の内部ひずみ測定法の開発について報告を行った。格子
ひずみの値として0.03%程度の誤差はあるものの、系統的なひずみ特性が得られており、今後の展開が期待される。
薄膜(1)/Fe系 1P-p18-21 座長 下山 淳一
1P-p18 高平(名大)らはPLD法による(Bi,Pb)2223薄膜の作製について報告した。ポストアニールによって2223相の形成を進めて
いるところは先行研究のNIMSの手法と同じであり薄膜法におけるPbドープと2223相形成が容易ではないことがうかがえた。
これまでにTc(zero)が約100 Kの薄膜が得られており、77 KのJcは自己磁場下で1.6 x 105 A/cm2に達している。
1P-p19 山垣(名大)らはVLS成長によるLa123薄膜の作製を行った結果を発表した。LaのBaサイトへの固溶の抑制が不十分なため
Tc(zero)は75 K以下に留まっており、組織の改善と同時に高Tc(zero)化の目処を立てることが重要と思われた。
1P-p20 一野(名大)らは、REフリーの新規線材候補材料を念頭に置き、Sr2CuO4-δ薄膜の超電導化を試みている。今回の発表
ではまだ、超電導の兆候が認めらておらず、今後、NTT基礎研がかつて行っていたようなオゾンなどによる強酸化を試みたい
とのことであった。なお、化学的に不安定であることも本物質の問題であるとのことであった。
1P-p21 佐藤(一関高専)らはFe(Te,S)における共存するFeTe2やFe3O4などの不純物の効果を議論した。これらの共存と
酸素アニールはともに過剰鉄の酸化を促進し、超電導特性が改善するとのことである。FeTe0.8S0.2試料のTc(onset)は9.8 Kに達して
いる。また、熱伝導度の評価から電子の寄与が非常に小さいことが指摘された。
MgB2(2) 1P-p22-23 座長 松本 明善
1P-p22 柏井(九大)からは核融合研と共同で研究を行っているMg2Cuを添加したMgB2線材の組織を中心に報告があった。
従来より反応温度を減少させルためにMg2Cu粉末を添加した線材の作製を行ってきた同グループであるが、未反応のホウ素
粉末が大量に残存し、特性の向上が抑制されていた。今回はボールミルによりホウ素粉末を微細化し、全体的に均一な組織が
得られ、Jc向上に有効であることを報告した。
1P-p23 前田(日大)からもホウ素粉末の影響についての報告があった。当初の高品位なホウ素の供給がなされなくなったことから多くの
研究者で苦労しているホウ素粉末であるが、最近、トルコより安価で高品位なホウ素粉末が出てくるようになった。本報告では結晶ホウ素
も含まれている従来品とアモルファス状のホウ素との比較を行った。その結果、トルコのホウ素によって優れたJc特性が得られていることを
報告した。
核融合(1) 1P-p24-25 座長 吉田 清
ITERインサート・コイルの試験計画について原子力機構の磯野から報告があった。ITER用のTFとCS導体を、直径1.5 mのソレノイドにして、CSモデル
コイルに挿入して、実機とほぼ同一条件で導体特性を評価する計画で、2014-2015年に行う。これによって、最高磁場部が0.4 mのサルタンと、最高磁場
部が10 m のインサートによる評価の差が明確になり、ITER実機の性能予測がより高精度になると期待される。また、ヘリカル型核融合炉FFHR-d1に
用いるHTS導体の自己磁場よる影響を考慮して臨界電流を予測値と測定値を比較した結果が総研大の寺崎から報告があった。
超電導応用(1) 1P-p26-28 座長 和久田 毅
1P-p26: 水野(鉄道総研)より、浮上式鉄道の車上用磁石にREBCO線材を適用した磁石の熱設計に関する報告がなされた。高温超電導線材を
使って磁石を高温動作させることができれば、液体ヘリウムや液体窒素を不要にできることに加え、さらには輻射シールドを不要として磁石構造を簡素化
することが可能である。その反面、冷凍機異常停止時に磁場の維持が難しくなること、輻射熱によりコイル内部温度分布が大きくなるなどの解決すべき
課題が生じる。熱機能材料として使用する高純度アルミと銅の物量(比)を設計パラメータとし、コイル重量、コイル内温度差、冷温保持時間を評価軸
として設計検討が行われた。温度差1 K以内、保冷時間1時間以上達成できることが示された。
1P-p27: 長田(東工大)より熱電対素子を宇宙機用の高温超電導マグネットの励磁電源として利用する場合のシステム検討(構成素子数、受熱板
面積、冷却板面積)結果の報告があった。木星軌道上で200 Aの電流を磁石に供給できるというところには驚かされた。
1P-p28: 横山(足利工大)から、ポータブルな小型磁場発生源となる、スターリング冷凍機を用いたパルス着磁方式のバルク磁石開発の経過についての
報告があった。装置規模は、単相100 V(消費電力320 W)、全長580mm, 幅330 mm。磁場は1.0 T以上発生を目標。
電力応用 1P-p29-32 座長 川畑 秋馬
1P-p29:大坪(九大)らは、限流機能付き66 kV-20 MVA超電導変圧器の突発短絡電流時における応答特性の解析結果を報告した。巻線に
CuNiを並列配置したREBCO線材を使用し、CuNi厚300 μm、Ag層厚15 μmとした場合、0.2秒後の短絡電流を定格電流の3倍以下とする
限流目標を達成でき、巻線温度も目標の300 Kより十分低い180 K以下に抑制できることを示した。
1P-p30:山崎(産総研)らは、10MW級鉄心利用超電導風力発電機用のコイルモジュールを想定した冷却試験結果を報告した。回転子と固定子
との空隙を小さくし磁束の利用効率を上げるために、鉄心周りに配置する超電導コイルのみを冷却する方法を採用し、そのための真空容器の構成や
コイル支持方法などを検討した。試作した真空容器で銅製ダミーコイルでの冷却試験を行った結果、20 K以下に問題なく冷却でき、侵入熱も予測値
とよい一致が得られることを示した。
1P-p31:猿渡(九大)らは、10 MW級Y系風力発電機を開発対象に、空隙磁束密度に対する発電機重量や使用線材長の解析結果を示した。
空隙磁束密度が大きいほど、発電機の小型軽量化が図れるが、使用線材長が長くなり高コストとなるため、今後は、小型化と低コスト化のバランス
を考慮した最適構造を検討していくとした。
1P-p32:吉澤(鉄道総研)らは、300 kWh鉄道用フライホイール蓄電装置の超電導磁気軸受の磁界解析結果を報告した。固定子側にRE系超電導
コイル、回転子側に超電導バルク体を配置した超電導磁気軸受で、10 tonのフライホイール(直径2 m, 高さ3 m)を支持するに必要な浮上力を発生でき、
軸方向および径方向ともに十分な浮上安定性が得られることを示した。
Y系基礎物性 2A-a01-04 座長 山田 穣
本セッションではY系基礎物、特に臨界電流、ピンニングに関して主に大学から報告された。
2A-a01 RE123焼結体の粒間臨界電流特性の支配因子:下山(東大)ほか
RE123焼結体の組織の改善、および仕込組成を変えて、粒間Jcのさらなる上昇を図った。様々な条件で作製したY123焼結体の粒間
Jcは、20 Kで最高4.1 x 103A/cm2に達した。また、Caドープによる顕著な粒間Jcの改善も確認された。
2A-a02 TDGLシミュレーションを用いたピンニングサイズ及び分布が超伝導特性に及ぼす影響:伊藤(名大)ほか
時間依存するGinzburg-Landau方程式(TDGL equations) を計算機を用いて解き、磁束運動をシミュレートした。本シミュレーションでは、ピンを四角格子状に
配置している。しかし、本試料では量子化磁束は三角格子を組むため、ピン止め力が効率よく作用していないと考えられる。基本的な計算結果が出ており、
今後の実際の試料(複雑化した格子を組む場合)への適用が期待される。
2A-a03 Nd/Ba組成制御によるBaHfO3添加Nd1+xBa2-xCu3Oy薄膜の超伝導特性の向上: 澤野(名大)ほか
これまでNdBCOにBaHfO3(BHO)を導入しナノロッドとして成長し、Jcが向上することを報告してきた。今回、Baを添加したNd/Ba(=x)置換型
固溶体のNBCOで、BHOナノロッドの成長および超伝導特性に与える影響を明らかにし超伝導特性を評価したが、x= 0.08のNdBCO薄膜で、Jcが向上した。
2A-a04 低温成膜法を用いて作製したSmBa2Cu3Oy薄膜中高密度BaMO3ナノロッドの磁束ピンニング特性:三浦 峻(名大)ほか
上記研究と同様、今度は低温成膜法で作製し、その影響を調べた。その結果、低温成膜法で細く高密度にナノロッドが導入されていることが分かった。また、
不可逆磁場も大きく向上した。
Y系含浸コイル 2A-a05-07 座長 松本 真治
樹脂含浸したREBCOコイルは、冷却時に径方向にはたらく熱応力により劣化することが問題となっている。劣化を回避
するREBCO含浸コイル開発について、同じ研究グループより3件の報告があった。
2A-a05 宮崎寛史(東芝):実際に劣化した含浸コイルの径方向の最大応力を計算したところ12 MPa程度であったが、
様々な機関より報告されている許容剥離応力とは一致していない。よって、含浸コイルを劣化させる応力を評価する
あらたな手法が不可欠と考え、コイルの内外径比に着目した許容剥離応力の評価方法が提案された。内外径比の異なる
コイルを試験し、n値(Icはコイルサイズに依存するため)によるを評価を行い、内外径比が1.4以下であればコイルの
劣化がなく、提案された評価方法により許容剥離応力は3 MPa程度であると報告された。
2A-a06 岩井貞憲(東芝):前報で示された許容剥離応力以下にすることで劣化を回避できるかについて確認を行っている。
内外径比が2、最大径方向応力約12 MPaのコイルを3分割することにより、最大応力を許容剥離応力以下に調整したコイル
は劣化することがなく、同グループが提案する手法が有効であることを示した。構成の異なる4種類の市販REBCO線材に
ついて、同評価方法を用いて許容剥離応力を調べた結果、1~12 MPaと大きく異なることが報告された。コイル製作に
有用なデータの蓄積が期待される。
2A-a07 戸坂泰造(東芝):前2報では、コイルの機械的特性が同じであれば、コイルの内外径比により、コイル径方向の
応力が決定され、許容剥離応力を超えないようにすれば良いとの結論である。しかしながら、構成が変われば、許容剥離
応力も変わる。コイルの径方向の熱応力は、線材と絶縁材の熱収縮率の差によるので、絶縁材の物性値や厚みによる応力の
影響について計算を行った結果が報告された。絶縁材の熱収縮率を小さくすることが応力の低減に効果的であることが示
された。
3件の報告より、研究グループが提案した含浸コイルの劣化を回避する方法については、その有効性が認識されていた。
一方で、レイヤー巻コイル等への応用やコイルを分割する際の内部応力の評価方法などについての議論が行われた。
磁気分離 2B-a01-05 座長 酒井 保蔵
2B-a01~a05: 磁気分離セッションは医療応用1件、磁気アルキメデス分離2件、バルク磁石用磁性フィルタ1件、放射能汚染
土壌の除染への応用が1件、計5件の報告があり、実用性などについて活発な議論があった。中でも、放射能汚染土壌の除染へ
の磁気分離の応用が社会的ニーズが高く、かつ、他の分離法に比べて優位性が認められ、磁気分離のトピックとして今後の展開
が期待された。
植田浩史ら(2B-a06)は前大会に続き、医療応用への小型超電導磁気分離システムについて報告した。今回は、超電導磁石の
高速オン/オフによる発熱の低減について検討した。
三島ら(2B-a02)は分離後の媒体をガス化回収できるシステムとして酸素を溶解したパーフルオロカーボン(PFC)を媒体とした磁気
アルキメデス分離について報告した。
植田雄輝ら(2B-a03)はポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)をエタノール中で磁気アルキメデス分離するシステムを提案した。PPは
浮上、PEは沈降し分離可能であった。連続磁気分離装置を設計しPE、PPの挙動をシュミレーションした。
坪野谷ら(2B-a04)はバルク磁石用の磁性フィルタとして、直径1 mmの強磁性円板を多数並べラミネートした厚さ0.1 mmのフィルム
状磁気フィルタを提案した。これを磁石ギャップ間に多層並べる構造である。フィルタ内の均一な流れの確保や球状フィルタはどうか
といった議論があった。
五十嵐ら(2B-a05)は放射性セシウム汚染土壌の除染プロセスについて報告した。放射性セシウムを吸着しているとされる粘土微
粒子が、常磁性のため、磁気分離により除染が可能であることが示された。実用的な検討も進められている。
超電導応用(2) 2B-a06-08 座長 植田 浩史
2B-a06(東北大・鹿野):本研究グループが長年取り組んでいる磁気浮上型超電導免震装置の報告である。今回は、渦電流
ダンパーを用いて制動機構を提案し、その有効性を実験によって確認した。免震装置の適用対象について質問があったが、ビルなどの
建造物よりは、博物館などの展示物を対象にしているとのことであった。また、余震などの連続した振動への対策が今後の検討課題
とのことであった。
2B-a07(NIMS・野口):厚労省科研費、地域医療基盤開発研究事業、「大震災時におけるMRI装置に起因する2次災害防止と
被害最小化のための防災基準の策定」の一環として、調査を行っている。今回は、東日本大震災の被災状況調査に基づき、MR装置
用超伝導マグネットを運転・管理する医療関係者に、どのように工学的情報を提供すれば不安要因を低減できるか検討した結果
(1都5県、602台)の報告である。臨床検査担当者の不安は、その9割が超伝導マグネットに対する漠然とした不安を背景としており、
クエンチに対する情報の不足が起因していることが明らかとなった。被災時の超伝導マグネットの初期診断・処置方法に関する情報を
提供することで、被災時に関係者が抱く不安はある程度除けると期待できるとのことである。一方、冷凍機が止まってからの液位減少
速度の変化情報、最低液位情報などが現場に提供されていないことが不安要因となっていることも明らかになった。
2B-a08(成蹊大・二ノ宮):これまでに、1対の着磁した超伝導バルク磁石とこれをおよび励磁する電磁石を用いて径5~10 mmの鉄球を
ギャップ中で浮上することを実証している。今回は,空芯のヘルムホルツコイルを補助コイルとして追加し、磁場を着磁磁場と同方向および
逆方向に印加できるように装置を改良した。この改良によって、ギャップ空間に傾斜磁場を形成できる。そして、磁性粒子を低磁場側に
セットした後、外部磁場を重畳していくと、高磁場側に移動することを確認した。今後、ギャップ中央部に磁性粒子を移動させる方法に
ついて検討していく。
JT-60SA 2C-a01-04 座長 辺見 努
2C-a01 吉田(原子力機構):日本と欧州で協力して建設している核融合実験装置であるJT-60SA用超伝導マグネット
機器の進捗状況に関する発表であった。それぞれの機器は、着実に製作が進められており、2014年初頭には平衡
磁場(EF)コイルの据え付けが開始されるとのことであった。
2C-a02 村上(原子力機構):JT-60SAの中心ソレノイド(CS)と同様に製作したモデル・コイルの性能検証試験結果
に関する発表であった。NIFSの大型試験装置を用いた試験結果から、実機に要求される性能を満足されることが示さ
れた。JT-60SAの建設において、マイル・ストーンとなる重要な成果である。質疑応答では、導体の歪状態に関する
議論が行われ、今後、より詳細な評価が行われることが期待された。
2C-a03 川原(上智大):JT-60SAの中心ソレノイド(CS)用に開発した接続部の安定性に関する実験結果と解析結果
の比較に関する発表であった。解析により、実験結果を模擬した結果とよく一致し、開発した接続部は実機の運転に
対して十分なマージンを有することが示された。質疑応答では、解析手法に関する議論が行われた。
2C-a04 神谷(原子力機構):JT-60SAのサーマル・シールドに使用する要素部品の開発成果に関する発表であった。
構造解析から得られた要求性能を満足するシールド間に配置する電気絶縁放射カバー及CTSとTFコイルを接続する電気
絶縁熱アンカーが開発され、サーマル・シールドの製作が着実に進展していることが実感された。
加速器(2) 2C-a05-07 座長 槙田 康博
2C-a05 岩崎昌子(KEK)らは、EPICSと呼ばれる分散制御ソフトウェアーを使用した、S-KEKBの冷凍機のモニタ
ーシステムについて報告した。加速器の他のエレメントと共有のデーターベースに冷凍機データーも保存され、
統一したデーター処理が可能となる。ネットワークセキュリティについての質問がされた。
2C-a06 合田和弘 (京大)らは鉄の磁極よりもコイル巻線形状と分布によってスパイラルセクタ型FFAGに必要な
磁場分布を誘起する設計研究の報告がされた。実機の設計報告ではなかったが、実機設計に向けて必要な様々
な検討、クエンチ保護、巻線工程などの質問が多く出された。
2C-a07 紀井俊輝 (京大)らはビーム軸に沿って周期的に配置されたバルク超伝導体と着磁用のソレノイドで
構成される新しいタイプのアンジュレーター(スタガードアレイアンジュレーター)を提案し、バルク超伝導
材料としてはMgB2の方がREBCOバルクよりもソレノイド磁場の変化量を大きくすることができるので、同用途
には優れているという報告をした。それを証明するシミュレーションでは半円断面の各バルクに半円形状の
渦電流を仮定してアンジュレーター磁場の解析をしていた。それに対して、その仮定に疑問や、巻線の方が
希望の電流分布になるのではないかというコメントがあった。
LTSデバイス(2) 2D-a01-04 座長 藤巻 朗
LTSデバイスのセッションは、この秋季講演会で初めて設けられた。他の学会とは聴講者が異なることから質問の質も異なり、
新たな刺激を講演者は感じたものと考えている。
2D-a01:加藤(横国大)は、単一磁束量子(SFQ)回路を用いた単精度浮動小数点加算器について報告した。16000個の
ジョセフソン接合による回路が、62 GHzまで動作しており、世界最大規模の回路実証となっている。
2D-a02:佐野(横国大)は、質量分析に用いる飛行時間計測を、SFQ回路を利用することで高精度化ならびに大ダイナミック
レンジ化を図ろうとしている。課題は、SFQ回路の冷凍機下での動作となる。外部発振器や雑音対策を施すことで、基本となる
時間‐デジタル変換器の動作実証に成功している。
2D-a03:井上(横国大)は、極低消費電力動作の断熱型磁束量子パラメトロン(aQFP)の小型化について報告した。aQFPは
磁場入力に対し、極めて高感度であるが、逆に励起電流とのクロストークにより、小型化ができないと言う課題があった。そこで、
入出力部を超伝導体で囲うことで励起電流の影響を低減化し、回路の大幅な小型化を図った。
2D-a04:佐々木(産総研)は、NbN/TiN/NbN接合を集積化したチップによる小型ジョセフソン電圧標準の開発を行っている。
冷却はGM冷凍機で行うが、コールドヘッドの温度変動の抑制が課題となる。そこで、熱容量の大きな鉛を付加し、変動幅を
抑制した。ただし依然として非常に長周期の変動が残っており、その原因の追及が課題となっている。
薄膜(2) 2D-a05-07 座長 向田 昌志
2D-a05 名古屋大学の鶴田らは、バイクリスタル基板上に作製したBaHfO3添加SmBa2Cu3Oy薄膜と無添加SmBa2Cu3Oy薄膜の
基板結晶粒界上の電流特性を詳しく調べた。臨界電流密度はどちらの膜でもバイクリスタル結晶粒界上で低下しているが、低下
率は、BaHfO3添加の方が少ないという結果が得られている。
2D-a06 電力中央研究所の一瀬らは、SmFeAs(O,F), Ba(Fe,Co)2As2, FeTe0.5Se0.5薄膜のCaF2基板界面近傍の微細構造を
透過電子顕微鏡JEM-ARM200Fを用いて観察したことを報告した。SmFeAs(O,F)膜は界面が非常にきれいで急峻な基板-膜
界面となっていたが、Ba(Fe,Co)2As2膜、FeTe0.5Se0.5膜では界面付近に反応層が存在し、(Fe,Co)2As2膜では、膜側が劣化
しており、FeTe0.5Se0.5膜では、反応層は基板側にあると大きく異なることが分かった。これらの反応層により、エピタキシャル歪の
効果は少なくなっていると考えている。
2D-a07 NIMSの藤岡らは、フラックス法により得られた単結晶SmFeAsO1-xFx粉末を用いて超伝導テープを作製したことを報告した。
SmFeAsO1-xFxの仕込みフッ素量を30%まで入れることにより、ほぼ単相のSmFeAsO1-xFxが得られ、そのTcは53.7 Kであり、格子定数
からフッ素量は15%と見積もられた。また、得られたTcの最高値は、仕込み量50%の時で、57.1 Kとなったとのことであった。
計測/熱伝導 2P-p01-02 座長 高田 卓
ポスターセッション「計測/熱伝導」は、2件の発表があった。
2D-p01古瀬(AIST)らのサブクール状態の液体窒素がしみ込んだポリプロピレンラミネート紙(PPLP)の熱伝導率を
計測したものであるが、その結果は単純に液体窒素の熱伝導とPPLPの熱伝導の足し合わせで考えた予測を大きく超える
熱コンダクタンスであり、驚きをもって活発な議論が繰り広げられた。臨界レーリー数をはるかに下回っている系で
対流が起きることは考えがたいが、対流の効果でもなければこれほどの熱コンダクタンスは計測しえない。この相反
する事実に新しい発見が隠れていることが期待される。
2D-p02山田(鉄道総研)らは光ファイバーによる温度測定技術について発表し、波長分割よりも時分割方式による測定
方法の方がより測定位置を正確に示すことが報告された。サイズも小さく、絶縁材で多点温度計測が可能な光ファイバー
技術の進展を感じさせ、多くの技術者の関心を惹きつけていた。
冷却システム(1) 2P-p03-07 座長 夏目 恭平
2P-p03 渡邉(中部大):ケーブル長200 m級の超伝導直流送電実験装置(CASER-2)の冷媒循環試験に関する発表。
3-16 l/min流量で冷媒を循環させ、循環流量及び温度と圧力損失の関係を評価している。10 l/minで液体窒素を
循環させると約1 kPaの圧力損失と約 1 Kの温度上昇が生じることと、循環流量の増加と共に圧力損失は増加する
一方温度上昇は小さくなる、という実験結果の報告がなされた。循環流量を増やすために、ポンプの吸い込み圧側
に圧力がかかりやすくする必要があり、リザーバータンクや配管、バルブ等を変更・調節を行うなどの工夫について
説明がなされた。また、圧力損失や温度の日中の変動は冷凍機増設の影響ではないかという考察があった。
2P-p04 ユーリ(中部大):高温超伝導直流送電用ケーブル配管内の冷媒循環について、圧力損失とケーブル配管長
及び熱損失(配管への入熱量)との関係を考察。配管入り口と出口の温度差を長さに関わらず一定(10-15 K)と
仮定した場合、「圧力損失」は「配管長2.75-3.75乗」と「熱侵入量の1.75-2.75乗」の積に比例するとして、実用
上考えられる数値を代入し、計算された。計算結果によると、ケーブル配管にコルゲート管よりも直管を用いた方が
圧力損失を低減できることが確認された。また、ロシアのサンクトペテルブルクで計画されている超伝導直流送電
プロジェクトとも連携して研究を推進していくという説明がなされた。
2P-p06 大森(帝京大):真空多層断熱材の断熱性能を測定する装置の試作についての発表。本装置の特徴は、液体
ヘリウムを用いずGM冷凍機を使用している点であり、試作した熱量計による較正試験結果は良好であると報告があった。
また、実際に2種類の真空多層断熱材の断熱性能を測定した結果、一方は過去のデータとよく一致したが、もう一方は
若干の差が生じている。今回の装置では真空多層断熱材を折り曲げて設置する箇所があることが、より硬い素材である
後者のデータの差を説明する可能性について議論されていた。
2P-p07 佐保(クライオイン):市販の数種類の飲料保冷用小型真空ボトルに液体窒素を充填し、蒸発量を計測する
ことによって熱侵入量を求め、断熱性能を比較している。試験結果から、細身で重量の軽いボトルのほうが断熱性能が
良い傾向が得られたと報告があった。液体窒素を充填した場合、外板と内板との間の断熱層の真空度が上がり断熱性能
が良くなるため、板そのものによる伝導が相対的に重要になり、板厚が薄いボトルのほうがより断熱性能が高くなると
いう考察であった。
Y系線材 2P-p08-12 座長 一瀬 中
2P-p08:吉田(ISTEC-SRL) IBAD/PLD法によるテープ線材はGdBCOでの開発が主流で あったが、GdをEuに代えることにより、膜厚を
厚くしてもJcが飽和する傾向が緩和され、特に長尺線材作製のためのマルチターンで作製すると3~4 μmまで膜厚に対してほぼ線形にIcが
増加した。Euを用いることで、c軸配向からずれた結晶粒の成長の起点となるCuOの生成を抑制することができ、それが膜厚に対してIcが飽和
しない要因である。
2P-p09:渡邊(名大) LSAT基板を用いてBaHfO3(BHO)を添加したSmBCO薄膜を低温成膜法で作製し、その特性を調べた。通常、
人工ピンを導入すると超電導膜のc軸長が伸びるとともにTcが低下するが、LSAT上のSmBCO薄膜は、BHO添加量の増加に伴い、c軸長
は伸びるが、Tcの低下はあまりみられていなかった。
2P-p10:石川(名大) IBAD-MgO上にBaHfO3(BHO)ナノアイランド を作製した後に、BHOを添加したGdBCO薄膜を作製し、BHOナノ
アイランドの影響を調べた。BHOナノアイランドはパルス数により形状はほとんど変化せず、数密度が変化することが確認されている。数密度の多い
試料では臨界電流特性は向上せず、少ない試料ではB//cの臨界電流特性はナノアイランドの無い試料と同じであった が、B//aの臨界電流特性
は2倍ほどに向上して いた。
2P-p11:上瀧(熊大) GdBCOコート線材に270 MeVと80 MeVのエネルギーの異 なるXeイオンを照射した試料の臨界電流の角度依存性を
測定し、磁束ピンニング特性を議論した。低エネルギーを照射した場合には、柱状欠陥が不連続になることが知られており、80 MeVの試料でJcの
磁場印加角度依存性に柱状欠陥が不連続になった効果が見られている。
2P-p12:益田(九大) 鞍型ピックアップコイルを用いてREBCO線材の交流損失を磁気的に測定し、ゼロ磁場のJcで規格化することで印加磁場
に対するヒステリシス損失が一本のマスターカーブに乗ることを実験的に示した。各温度のゼロ磁場のJcが分かれば、各磁場のヒステリシス損失を
見積ることが可能である。
HTSコイル(1) 2P-p13-18 座長 宮崎 寛史
2P-p14 梅田(早稲田大):実規模サイクロトロン用スパイラルセクターコイルの1/2モデルを試作した結果について報告があった。使用した線材は
SuperPower社の4mm幅の線材であり、磁場測定結果を計算値と比較した結果が示された。巻線精度や遮蔽電流による誤差磁場の影響に
ついては今後評価していく予定とのことである。
2P-p15 青木(日立):樹脂含浸装置が不要でコイル製作が容易になるプリプレグを用いた伝導冷却コイルについて報告があった。レイヤ巻コイル
の層間にプリプレグシートを挿入しながら巻線することでエポキシ樹脂と同等の熱伝導率を有することを確認したということである。機械的な強度に
関してはエポキシ含浸コイルには及ばないものの、コイル製作コストを低減できる有効な手法と考えられる。
2P-p16 宮副(日立):伝導冷却型HTSコイル設計で重要となる励磁時のコイル温度計算手法について報告があった。励磁過程で生じる交流
損失やフロー損失などを考慮して、過渡的なコイル温度の時間変化を計算し、実験値と比較した結果を示した。現状では、計算値と実験値に差が
見られたが、発熱量の計算誤差の影響ということである。
2P-p17 柳澤(千葉大):非絶縁REBCOパンケーキコイルの冷却条件が与える影響を調べた結果について報告があった。本発表では、非含浸
コイルとパラフィンで厚く含浸したコイルを比較し、パラフィン含浸したコイルでは断熱条件に近い条件となり、熱暴走後の消磁過程で温度が十分に
下がりにくい結果を示した。
2P-p18 中田(早稲田大):非絶縁REBCOパンケーキコイルの接触抵抗の試験結果について報告があった。コイルを励磁した状態から電源を
遮断した際の電流減衰を調べることで、層間の接触抵抗を評価した。ターン数を20, 40, 60と変化させたが、接触抵抗は、ほぼ一定となる結果が
得られた。
HTSコイル(2) 2P-p19-23 座長 戸坂 泰造
2P-p19 坂川(九大): Y系転移並列導体をコイル化した際の付加的交流損失に関連する遮蔽電流を計算評価した結果について報告された。
遮蔽電流は、導体のn値と、コイル端部のはんだ付けによる抵抗に強く影響されることが示された。
2P-p20 山下(九大): ソレノイド状に巻線されたY系転移並列導体の電流分布を数値解析で評価した結果について報告された。これまでは考慮
していなかった、電流リードとの接続抵抗、磁束フロー抵抗を解析に組み込んだ。各素線の電流分布が、素線の臨界電流値等に影響されることが
示された。
2P-p21 許(千葉大): 市販のREBCO線材にカッターで自ら溝を入れることで、3分割したスクライビング線を作製し、それをコイル化して遮蔽電流
磁場を評価した結果について報告された。スクライビング化することにより、n値が低下する問題はあったものの、スクライビング化しなかった線材
で作製したコイルと比較して、遮蔽電流磁場を低減できることを示した。
2P-p22 有谷(早大): Y系超電導線材で小型ダブルパンケーキコイルを作製し、遮蔽電流磁場における自己磁場と外部磁場の影響について、
実験と数値解析で評価した結果について報告された。定量性に課題があるものの、自己磁場に外部磁場を重畳した場合においても、実験で得られた
遮蔽電流磁場の特徴を数値解析で再現できることを示した。
2P-p23 細野(東海大): YBCOテープ線材を用いて作成した電流リードを4本組み合わせて作製した集合型電流リードの通電特性と、熱侵入量の
評価結果について報告された。10 kAは問題なく通電できた。その時の4本の電流リードの電流分担は2120 A~3170 Aと推定された。また、10 kA
通電時の熱侵入量は、1.47 Wと推定される。
酸化物バルク 2P-p24-30 座長 横山 和哉
2P-p24:赤坂(鉄道総研)らは、FC着磁したMgB2バルク体の円周方向の磁束密度分布を評価し、ばらつきが6%以内であり、均一性が
高いことを示した。
2P-p25:村上(一関高専)らは、充填率の異なるMgB2バルク体の曲げ試験を実施し、強度が充填率と共に指数的に増加し、さらにRE系
バルク体に比べて2.5倍以上となることを明らかにした。
2P-p26:杉野(東大)らは、10-100 mmφのMgB2バルク体を製作し、各サンプルのミクロJcがほぼ一定であるがFCの結果
では捕捉磁場が低下する傾向について、Jc-B特性が影響していることを示唆した。
2P-p27:大浦(東大)らは、RE系バルク体の特性を評価する手法として、FC着磁の過程において外部磁場をわずかに低下させ、その時の磁場分布
と解析結果からJc-B特性を評価する手法を提案した。
2P-p28:中里(芝浦工大)らは、均一で高特性なREバルク体を製作し易いとされるIG法において、最適な製作条件を模索し980℃で25 hを
見出した。製作されたYBaCuOはTcが93.25 Kでシャープな転移を示し、Jcも良好であった。
2P-p29:堀井(京大)らは、Y系超伝導バルク体の三軸結晶配向において、従来180°磁場を回転させていたが、20°の首ふり方式の変調磁場で
約10°の配向度を達成した。
2P-p30:山岸(横浜国大)らは、HTS発電機/モーターにおいて、バルク磁石の周囲にBi2223線材のコイルを配置することで、変動磁界による磁場
の劣化を抑制することができることを報告した。
加速器(2)/NMR 2P-p31-35 座長 前田 秀明
「2P-p31:大畠(KEK)」TREK実験に使用する超伝導磁石について、既存の冷却装置を再利用するに当たり問題点を調査した結果を紹介した。
2014年度前半に設置し、2014年度11月から試運転と物理実験を行う。
「2P-p32:岡村(KEK)」線形加速器であるILCについて国際協力で検討を進めている。関連して2台の検出器を交互に衝突点まで移動させる方式の
検出器と、最終収束4極超伝導磁石の冷却システムを紹介した。
「2P-p33:岩崎(KEK)」高輝度化を目標として開発しているSuperKEKB加速器について磁場測定制御システムを紹介した。
「2P-p34:野口(北大)」MRI/NMRでは磁性鉄片による磁場補正が用いられる。非回転対称コイルで、径方向磁場成分も求めることができる解析
手法を開発した。Magic Angle Spinning用のダイポールコイルなどへの適用が期待される。
「2P-p35:富田(JR総研)」リング状超伝導バルクを積層すれば、中心磁場や磁場均一度が向上すること、5層バルクは冷凍機伝導冷却で均一に冷却
できることを示した。バルク磁石の大型化に有効な知見である。
送電ケーブル 2P-p36-40 座長 大屋 正義
2P-p36:小松(九工大):DCケーブルへの縦磁界効果適用のため、設計に用いる磁場解析式をFEM解析結果と比較。
両者の整合性が確認され、今後ケーブル設計を進める。解析だけでなく実験との比較があると説得力が出るのではと議論。
2P-p37:福本(鉄道総研):鉄道用送電線では複数車両の力行が重なると一時的に電流が上昇する。短時間過電流を許容できれば
超電導線材量を減らせる。まずは線材の過電流特性を評価。線材の劣化・焼損だけではなく、気泡発生による絶縁破壊を懸念。
今後はケーブルに近い形状で評価する。鉄道向けケーブルの定格電流の考え方を整理頂くことに期待。
2P-p38:孫(中部大):2層ケーブルにおいて各層を逆方向に撚るよりも同方向に撚る方がIcが高い。ただし、Icが向上するのは
下層のギャップ上に上層の線材が配置される場合で、線材が重なるとIcが低下する可能性がある。実ケーブルで線材位置を
どう制御するのかまで研究を発展させることを期待。
2P-p39:山口(中部大):サハラ・ソーラー・ブリーダー計画の概要について報告。セッションでは実際に日本とアルジェリア間でどの
ようなアクションを起こしているのか、貴重な情報を紹介。具体的な評価としては、サイダ大学の敷地内で地中温度の測定を開始。
1.5 mほど掘ると26℃程度で一定となり、断熱管への影響はほとんどないとの結果。
コイル技術 3A-a01-07 座長 藤吉 孝則
3A-a01:野口(北大)らは、Partial-insulationコイルの数値シミュレーションについて報告した。巻線のインダクタンス
と線間の抵抗を考慮した等価回路を用いて数値シミュレーションを行い、コイルの端子電圧と電流分布を調べている。励磁
時間の短縮のために線間の選択的な絶縁が効果的であることを指摘した。Partial-insulationコイルの有用性について活発
な議論が行われた。
3A-a03:山口(住友電工)らは、DI-BSCCO線材を用いたダブルパンケーキコイルを用いてクエンチ検出および保護のための
条件の調査結果を報告した。通電電流200 A、クエンチ検出時間0.1 sとして、クエンチ検出電圧と電流減衰時定数をパラメータ
として、コイルの温度を徐々に昇温してクエンチを発生させ、コイル劣化の有無を調べている。クエンチ検出方法やコイル劣化
の評価について議論が行われた。
3A-a04:長崎(京大)らは、宇宙機搭載用高温超伝導コイルの設計のために、Bi2223/Agダブルパンケーキコイル内に誘導
される遮蔽電流による磁場の測定を行い、その減衰特性と解析モデルによる結果と比較について報告した。
3A-a05:王(早大)らは、著者ら提案しているYOROI構造のREBCOパンケーキコイルのコイル構造体をモデル化した数値解析
を行い、その補強効果について報告している。その結果、補強部が巻線に加わるフープ応力の半分以上を分担することができ、
REBCO線材の許容限界の引張応力を超えない設計が可能となることを指摘した。
3A-a06:上野(住友電工)らは、3 MW船舶用超伝導モータの界磁コイル用に開発されたDI-BSCCOレーストラックコイルのフープ
力の繰り返し印加に対する耐久性について報告した。ステンレスケースに格納したコイルに4.2 K下で定格運転時の1.5倍の拡張
力を2400回繰り返し印加して、コイルの電流-電圧特性から劣化が見られないことを示した。
3A-a07:高橋(昭和電線)らは、人工ピン導入したTFA-MOD法によるYBCOコート線材を用いて500 A級の電流リードを開発して、
その通電特性や機械的特性を報告した。今回開発した超伝導電流リードは、500 A用の電流リードとして十分な性能を有しており、
さらに安定化層を減らすことにより、熱侵入量の低減および小型化を実現できることを報告した。
Bi系線材 3B-a01-05 座長 山崎 裕文
3B-a01 菊地(住友電工):DI-BSCCO 線材について、走査型ホール素子顕微鏡の観察結果からフィラメント薄肉化でJcが向上
することが示唆されるため、Type H 線材の厚みをこれまでの 0.23 mm から 0.2 mm に薄くしたところ、Icは変化しなかった。
結果としてJeが向上するとともに、銀の使用量を設計上13% 低減できる。
3B-a03 町屋(大同大):DI-BSCCO 線材をスプリングボード製の治具にハンダ付けし、それを曲げることによって連続的に引張・
圧縮歪みを与え、白色X線で測定した結晶歪みと比較するとともに、Icへの影響を調べた。引張側では 0.2% まで負荷歪みと結晶
歪みが線形な関係を示したが、圧縮側では 0.1% 付近から非線形な挙動を示すとともに、Icが低下した。
3B-a04 長村(応科研):前報の実験結果に関する考察を行い、圧縮側で非線形挙動が生ずる歪みが引張側よりも小さいのは残留
応力の効果であり、非線形領域でのIcの低下はフィラメントの破断による、とした。座長から、線形領域における圧縮歪みによる
Icの向上について質問があり、「粒界結合が圧縮応力で強化されてIcが向上すると考えている。」とのことであった。
Y系PLD線材 3B-a06-09 座長 淡路 智
セッションタイトル通り、PLD法によって作製したREBa2Cu3O7 (RE123)膜に関する4件の報告があった。
小島ら(名古屋大)は、PLD法で作製したY123膜のCuサイトへのCo置換及びYサイトへのCa置換、さらに酸素アニールの効果について
報告した。Cuサイト置換は、電子散乱点を導入することで上部臨界磁場Bc2向上が可能であるが、Tcが低下するためキャリアドープが
必要とのことで今回は、Caドープと長時間酸素アニールによりキャリア濃度の向上を実施した。結果として、77 Kの自己磁場IcやTcが、
一部の試料で添加後の値と比べて増大できるとした。また、Bc2の向上に伴い、凝縮エネルギー密度向上も期待できるとしたが、Bc2向上と
Bcの向上がどのように繋がるのか議論があった。また、 Cuサイト置換効果に関する先行研究との比較により、薄膜特有の現象の可能性も
あるのではとのコメントもあった。
樋川ら(名古屋大)は、BaHfO3(BHO)添加RE123 (RE=Sm, Gd)膜に対し、希土類元素SmとGdの違い及びLaAlO3単結晶基板と
IBAD-MgO基板の違いについて報告した。IBAD-MgO基板上に作製した場合、同じBHO濃度でも、単結晶基板と比べてナノロッドの
数密度が大幅に増加する。その原因が、基板種類の違いか基板温度の違いか議論になったが、単結晶基板の場合の正確な基板温度が
不明だったため、これに関して今後明確にするとした。希土類の違いについては、GdとSmではJcの磁場依存性が異なるが、これに関して
希土類の種類が異なるため過飽和度の違いを検討する必要があるとのコメントがなされた。すなわち、同じ基板温度でも希土類元素が
異なると相対的な過飽和度が変わるため、その効果を計算に入れる必要があるとのことである。
向田ら(九大)は、RE123膜におけるナノロッドの成長メカニズムに関する考察について発表した、ナノロッドは、RE123の成長初期の2次元
成長では真っ直ぐに成長し、途中から螺旋成長へ変化することで曲がりが生じ、花火構造(fireworks structure)となる。このため、傾斜基板
を用いて2次元成長方向を1方向に決めてしまうと、傾斜角度に依存してナノロッドの存在する層としない層が、基板面に対し斜めに形成される。
さらに、臨界電流の磁場角度依存性には、縞模様方向にピークが現れることを報告した。過飽和度に依存する成長モードの違いによって、
ナノロッド構造が変化することになるため、過飽和度との関連でナノロッドの形状や密度の制御が期待できる。
町ら(ISTEC)は、RE123テープのレーザースクライビングについて報告した。エキシマーレーザーを用いることで、5 mm幅の線材を10分割する
ことに成功した。このとき、溝の幅は25 μmまで小さくでき、良好なエッジとなるとした。良好な部分では臨界電流密度の低下も無く、これまでの
マスクを用いた化学エッチングのようなオーバーエッチングも見られない。しかし、レーザーパワーの制御がまだ不完全のため、歩留まりが低いことや
クラックが入ることなどの問題がまだあるとのことである。現在、マグネット応用が始まったRE123線材で問題となっている交流損失と遮蔽電流に
対し、これを解決できる可能性のある本技術の今後の展開に期待したい。
Y系MOD線材 3B-p01-04 座長 土井 俊哉
本セッションでは、RE系MOD線材に関して4件の発表があり、活発な議論がなされた。
3B-p01:元木ら(東大院工)は、アセチルアセトン塩溶液に微量の塩酸を添加したフッ素フリーMOD法で塩素ドープしたYBCO厚膜の作製を行った。
塩素ドープを行うことで生成するBa2Cu3O4Cl2相がYBCOのエピタキシャル成長を助け、7回塗布によって0.9μmの高い特性(Jc>1 MA/cm2)を有する
厚膜が作製できることを示した。またBa2Cu3O4Cl2相はピンニングセンタとして機能する可能性もあることを示した。
3B-p02:小峯ら(成蹊大、ISTEC-SRL)は、IBADテープ上にYBCO、YGdBO層をTFA-MOD法により作製し、酸素アニール温度がc軸長、
Jcに与える影響を報告した。
3B-p03:横溝ら(九大、昭和電線、超電導工研)は、TFA-MOD法とバッチ式一括熱処理プロセスを組み合わせて作製したBaZrO3人工ピンを
導入した130 m長のYGdBCO線材の臨界電流特性について報告した。2.5 μm厚に作製された線材の77 K、自己磁場中における1 cm幅当たりの
Icは600 A/cm-w、20 K、10 T中では340 A/cm-wと良好な特性であったこと、及びパーコレーション転移モデルによって計算されるIcと測定結果が
広い温度、磁場範囲で一致することを示した。
3B-p04:木村ら(昭和電線、九大、超電導工研)は、BaZrO3人工ピンを導入したバッチ式一括熱処理プロセスによるTFA-MOD法YGdBCO
線材の特性に、本焼時の昇温速度が与える影響について報告した。昇温速度を4~15℃/分の間で検討した結果、8~11℃/分付近が最適であった。
2.5 μm厚、124 mの線材の77 K、自己磁場中における1 cm幅当たりのIcは400 A/cm-w以上、3 T中では50 A/cm-w以上と良好な特性を有する
ことが示された。
Y系線材特性 3B-p05-10 座長 一野 祐亮
本セッションでは、主にコーテッドコンダクター(CC)の評価について6件の口頭発表があった。
3B-p05井上(九大)らは、高配向IBAD-MgO基板上に作製されたGdBCO CCの詳細な評価から、Jcの均一性が向上し、磁場中Jcも向上する
事を示した。これは、CCのさらなる性能向上の可能性を示している。
3B-p06 鈴木(東北大)らは、商用線材に応力印加アニールを行った影響について報告した。Icの歪み依存性はc軸方向の変形も考慮に入れる
とよく説明出来ることを述べた。
3B-p07 片平(九大)らは、走査型ホールプローブ顕微鏡(SHPM)を用いてCCのIc分布を評価し、TAPESTARTの比較を示し、SHPMが
TAPESTARに劣らないIc分布評価が可能で、かつ二次元的な分布情報も収集可能であることを示した。
3B-p08 平山(鹿児島大)らは、ピックアップコイルを用いてCCフィラメントの電流分布を測定することを試みた。
3B-p09 帶田(鹿児島大)らは、ポインチングベクトル法を用いた交流損失評価法について報告した。
3B-p10 曽我部(京大)らは、Roebelケーブルの交流損失について数値計算し、ケーブルの転位構造付近で損失が置きやすいことを示した。
Y系バルク(1) 3C-a01-05 座長 藤代 博之
本セッションでは、HTSバルク・着磁に関する5件の発表がなされた。
岡(新潟大: 3C-a01)と堀内(新潟大: 3C-a02)、は、複数個の種結晶を用いたYBCOバルクの結晶成長とそのパルス
着磁特性を報告し、低磁場で磁束を捕捉できる可能性について考察した。
瀬戸山(東大: 3C-a03)はRE123溶融凝固バルクを作製する際の組織や臨界電流密度へのREイオンの混合効果や新しい
ピン止め中心となるBa2Cu3O4Cl2の添加効果について報告し、臨界電流密度の磁場依存性が向上する可能性を示した。
山木(東大: 3C-a04)は、Y123とY211を同時作製するプロセスとGa微量置換を用いて強磁場Jc-B特性を評価した。40 K
で直径8 mmの小型バルクに、計算上では10 Tを越える捕捉磁場が予想され、今後の研究の進展が楽しみである。
椎野(東大:3C-a05)は、結晶の磁気異方性を用いた磁場配向法により、c軸配向Hg(Re)1212焼結体の作製をスリップ
キャスト法を用いて行い、Jc-B特性の向上を目指した。今後の特性改善が期待される。
Y系バルク(2) 3C-a06-09 座長 和泉 充
3C-a06 手嶋(新日鉄住金)は、77 Kでの捕捉磁場特性の異なる直径46 mmのGd系バルク高温超電導材において30-50 Kの低温
領域でより捕捉磁束の高い試料が、60-70 Kの臨界温度に近い高温領域では、必ずしも他の試料よりも高い捕捉磁束を示すとは
限らないことを報告した。
3C-a07 藤代(岩手大)は、GdBCOやMgB2バルク体の磁場中冷却着磁過程における捕捉磁束のシミュレーションについてモデル構築
と解析結果を報告した。各温度での磁場中臨界電流特性、すなわちJc-B特性の実測値を用いて各温度における捕捉磁束を良く再現
できるようになったとの報告があった。
バルク材は近年、REBCO系に見るように高均質かつ高い捕捉磁束を示すようになっており、今後のデータの蓄積が期待される。
電気機器・電力機器 3C-p01-05 座長 岩熊 成卓
3C-p01:牧(東京海洋大学)では、10 MW洋上風力用HTS発電機について、概念的に行った設計検討例が報告された。回転界磁子を
HTS巻線で構成し、電機子は従来通りの銅巻線としたものである。主に、電機子外形、界磁起磁力をパラメータとして、効率、重量、HTS
線材長等の主要諸元がどのように変わるかが示された。
3C-p02:中村(京大)では、DI-BSCCO線材を、かご型誘導同期回転機の回転界磁、固定電機子に適用し、77 K液体窒素浸漬冷却の
レトロフィット型超電導回転機として試作し、その性能向上を目指している旨の報告がなされた。
3C-p03:長谷川(鉄道総研)では、NEDO助成事業として行われている、系統安定化用超電導フライホイール蓄電装置の設計検討について
報告がなされた。現段階の構想では、ローターにHTSバルク、ステータにRE系HTSコイルを適用し、完成後には太陽光発電所に6.6 kV交流
系統で連系し、実証試験を行う予定であるとされた。
3C-p04:佐藤(東北大)では、発表者らが考案した超電導可変リアクトルの基本動作特性が報告された。基本構造は、変圧器と見なした場合、
鉄心の両脚に、一次側としてコイル、二次側としてHTSバルク円筒を組み込んだものである。二次側のバルク円筒には、このJcを制御する磁界印加
用コイルが付加される。このコイルで磁界を印加せず二次側が短絡状態であれば、一次側から見たリアクタンスはほぼゼロであり、逆に磁界を印加して
バルク円筒のJcを低下させれば、リアクトルとして機能することが示された。
3C-p05:平山(鹿児島大)では、試作したHTSリニアスイッチトリタラクタンスモータの報告がなされた。固定電機子の巻線にBi2223線材を使用し、
移動する界磁子は鉄のみで構成される。今回は、全体を液体窒素浸漬冷却とし、その通電、動作特性が示された。
核融合(2) 3C-p06-10 座長 村上 陽之
田村氏(NIFS)よりヘリカル型核融合炉FFHR-d1のコイル支持構造物の応力評価について報告があった。運転中のフープ力
64 MN/m、転倒力8 MN/mに対して、最大相当応力660 MPaとSUS316LN等の許容応力内であることが示された。解析
条件に関する質問に対し、導体同士は一体とし、導体と構造物間はすべりも考慮したとの回答があった。また、電磁力による
変形がプラズマに与える影響については、許容される範囲内である旨の説明があった。
柳氏(NIFS)、伊藤氏(東北大)より100 kA級高温超伝導導体の製作と試験について報告があった。全体概要(柳氏)では、
54枚のGdBCO線材を単純に積層した導体を用いて、100 kAの通電に成功したことが報告された。線材の必要量に関する
質問に対して、現在の線材生産能力に対して膨大な量を必要とするわけではなく、コスト等も含めて現実的なオプションであるとの
回答があった。また、線材の固定方法に関しては、導体化する際の圧縮力により固定し、フリーの状況ではないことの説明があった。
接続部抵抗評価(伊藤氏)では、接続面を少し粗く磨くこと、接続を1層ずつ実施することにより、100 kA級の導体で目標とする
接続抵抗値を満足したことが報告された。接続部のサイズに関する質問に対しては、現状では1-1.5 m程度の長さが必要であり
小さいものではない。現状の接触抵抗率は理想的な値に対して3倍程度の値であり、製作方法を最適化することで接触抵抗率を
下げ、コンパクトな接続を目指す旨の回答があった。また、実機の接続に関しては、接続部を直線とすることで対応でき磁場への
影響も許容範囲内であることの説明があった。
森村氏(東北大)よりCIC導体の撚りピッチと循環電流分布の関係に関する報告があった。各段の撚りピッチの最小公倍数が
循環電流分布に与える影響が大きく、撚りピッチの組み合わせが重要であることが示された。撚り乱れの影響に関して質問があり、
今回の解析では撚り乱れも考慮していると回答があった。実際の製造に当たっては、製作性の面からも撚りピッチの組み合わせが
限られてくるため、製作メーカーと協議し最適化を行う必要があるとのコメントがあった。
今川氏(NIFS)より、LHDヘリカルコイルの片側常伝導伝播に関する報告があった。サブクール中では、飽和ヘリウム中に比べ
常伝導伝播が回復するまでの時間が、半分程度になる現象がみられた。また、モデルコイルを用いた試験でも、伝播時間が短くなる
ことが観測されており、サブクールによって冷却状態が改善されていることが示された。安定性との関連についての質問に対し、伝播
時間と安定性に関しては、どちらも冷却状態に起因するため定性的には関連があると考えている。解析等で詳細な現象について
解明していくとの回答があった。
冷却システム(2) 3D-a01-05 座長 仲井 浩孝
3D-a01:武田(新領域技術研)は、脳磁計用ヘリウム循環装置を開発し、計測中でもヘリウム循環装置を運転できることを
示した。ヘリウム循環装置は蒸発した冷たいヘリウムガスをGM冷凍機で再凝縮させるもので、ランニングコストを軽減できる。
パルスチューブの採用を勧める提案があったが、GM冷凍機でも振動等の問題は生じていない。
3D-a02:東谷(東大)は、KAGRA用クライオスタット冷却性能試験の結果を報告した。高放射率コーティングを施すことにより、
冷却時間を約半分にできた。次に鏡の伝導冷却方法の検討を行っているが、冷却系と鏡との接続部での熱伝達が問題となるで
あろう。
3D-a03:榊原(東大)は、KAGRAの輻射シールド開口からの熱輻射を低減するために、パイプ型シールド(ダクトシールド)から
の熱放射量を光線追跡法により計算して、ダクトシールドのバッフル位置の最適化を行った。計算結果は、測定による熱放射量
と誤差の範囲内で一致した。
3D-a04:夏目(NIFS)は、超電導マグネットの冷却に使用する平板状自励振動式ヒートパイプの開発を行っている。作動流体の
種類や封入量による動作特性の違いを調べた。ヒートパイプを45°傾けた場合の特性や、パイプ全体としての流れの有無による
影響などの研究が進められている。
3D-a05:井上(東工大)は、二重管式極低温サーモサイフォン型ヒートパイプの熱輸送特性を測定した。二重管を用いて気相と
液相の流路を分けることにより、フラッディングの影響を排除した。気相が二重管の外側と内側のどちらかを流れるかによってヒート
パイプの特性が異なるが、液膜の厚さや気相の流量が熱輸送特性に影響していると考えられる。
冷却システム(3) 3D-a06-09 座長 池内 正充
3D-a06 大野(前川):NEDOプロジェクトの一環として製作された5 kW級ブレイトン冷凍機の初期冷却試験結果について報告された。
超電導ケーブル試験では6台のスターリング冷凍機で冷却しているがこれを1台の冷凍機で冷却する予定とのこと。
Q(質問):現在、旭変電所では予備の冷凍機を持っている。ブレイトン冷凍機1台ではトラブルが生じた場合の対処方法はあるのか?
A(回答):リザーバタンクを増設してケーブルの温度上昇を抑え、その間に復旧させる。
3D-a-07 青木(KEK):
J-PARC で5年間運転中のSKS冷凍システムの実績の報告が行われた。期間を、東日本大震災まで、大震災から復旧まで、放射線
漏れから現在の3つに分けて説明があった。
Q:冷凍機のフランジ面にクラックが入った原因は何か?
A:原因不明。つくばから移設した冷凍機故、非常に長期間の運転が行われていて原因の特定が難しい。
3D-a08 野口(NIMS):
超1 GHzNMRコイルの液体窒素温度までの予冷方法について報告があった。CEと独自の簡易断熱配管を用いることで連続的な冷却を
可能としたものである。
Q:簡易断熱配管を用いた理由は何か?
A:取回しの容易性が一番の理由である。
3D-a09 野口(NIMS):超1 GHzNMRコイルの液体窒素温度から液体ヘリウム温度までの予冷方法について報告があった。He不足の中で
再凝縮機の能力を考慮した運転を行いHeの使用量を大幅に減らすことができた。
Q:シーケンス的に自動化はできないのか?
A:何回も行うことではないので考えていない。
Q:窒素予冷後の系内残留窒素の濃度計測は行っているのか?
A:これまでの知見からガス置換の方法・回数等を決定し問題は生じていない。
Fe系超電導 3D-p01-05 座長 堀井 滋
3D-p01 筑本(ISTEC、現中部大)らはCoおよびPドープしたBa122単結晶およびPをドープしたSr122単結晶のピンニング特性に
関して報告した。磁化法から得たJcの磁場依存性によれば、Co-Ba122およびP-Sr122で磁場の増加とともにJcが向上する磁場誘起型
ピンニングが観測され、これが起こる磁場領域が異なる。Fpでも同様な傾向がみられ、低磁場でピーク効果を示すCo-Ba122はΔTc型
の、高磁場で示したP-Sr122はΔl型のピン止め点が導入されていると報告した。
3D-p02 井沢(首都大)らは、PIT-Fe(Te,Se)線材製造におけるin-situ法およびex-situ法のそれぞれの問題点を克服するため、アニオン
過剰な六方晶構造を原料として超伝導相の正方晶への構造相転移を利用した線材作製の可能性を検討した。バルク材から、500℃
以上で相転移は起こるが、600℃以上では正方晶相は過剰鉄を含み、超伝導性を示さなくなることがわかった。また、525℃の熱処理に
加えて低温アニールを施すことで、バルク試料は4.2 KでJc ~3000 A/cm2、Birr~7 Tを示した。
3D-p03 金(九大)らは、CaF2基板上で得たFe(SeTe)薄膜(Tc~16 K、膜厚160 nm)を用いてスキャンニングSQUIDを用いた磁束観測を
おこなった。外部磁場1 μT 下で1本の量子化磁束の磁場の空間分布をTc以下の様々な温度で調べることで、磁場侵入長の2乗(あるいは
クーパー対の密度)の温度依存性を明らかにした。測定精度の問題はあるものの、s波の対称性から得られる温度依存性とは大きく異なることを
明らかにし、異方的s波の可能性を示した。
3D-p04 高(NIMS)らは、ex-situ-PITプロセスで作製したAgシースBa122系超伝導テープにおけるロール加工とプレス加工が与えるJcへの
影響について報告した。総じて、プレス加工したテープが高いJcを示し、最高で8.6×104 A/cm2となった。この値はロール加工の約2倍の値で
ある。微細組織においても、プレス加工することでvoidの少ない密な組織が確認された。7芯テープの製作も行い、若干のJcの低下は見られた
もののプレス加工の有効性が示された。
3D-p05 林(東大)らは、Co-Ba122多結晶焼結体の高Jc化を実現する最適な熱処理条件に関する報告を行った。熱処理後の微細組織
から、800℃以上ではvoidを多数含む疎で粒界の結合が良くない組織が得られたのに対して、700℃以下ではvoidのない緻密質となった。
Tcは、700℃以上の熱処理の場合で25K 、500℃、600℃の熱処理ではそれぞれ23 K、21 Kであった。熱処理温度の低下はTc低下を
もたらすことから、Co-Ba122バルク材の開発においてTcおよび粒界結合の両立を実現する熱処理温度の最適化が重要となる。
熱移送/物性 3D-p06-09 座長 岡村 哲至
3D-p06:高田(核融合研) 1 mG未満の微小重力下における飽和HeII中の細線ヒーター上の臨界熱流束を測定した結果が示された。地上実験で得られる結果を
微小重力下 のそ れに外挿できること、臨界熱流束の大きさはファンデルワールス圧力を考慮すると定量的に評価できることが明らかにされた。
3D-p07:岡村(KEK) 臨界点近傍ヘリウムの自然対流について直接数値計算を行い、乱流境界層中に形成される渦構造、平均場及び変動成分に関して考察
された。温度境 界層 や速度境界層厚さがμmオーダーと非常に薄いこと、強制対流とは異なる場の変動の性質が示された。
3D-p08:岩本(核融合研) 核融合における高速点火実証実験用ターゲットの固体燃料層において、液体燃料が浸透している多孔質材の上下に温度差をつけた
あと固化をするこ とで 気泡残留率が1%に抑えられたこと、及び固体水素の屈折率の測定結果から不規則な固化の場合はそれが11%と予想されることが示された。
3D-p09:大西(神戸大) Freeze-Thaw法によってスラッシュ窒素を生成した時、攪拌器の回転数を大きくすると固体の粒径が小さくなる傾向があることが示された。
また、自作の静電容量型固相率計を用いて計測された固相率に対する固体粒径分布及び粒径の違いによる影響について述べられた。